熊が好きです。
北海道にある主要な熊牧場3か所には、何度も遊びに行ったし、実在する獣害事件を解説するYouTubeのコンテンツも全部見たと思う。
三毛別羆事件や福岡大学ワンダーフォーゲル部ヒグマ事件とかね。
熊が出てくる映画も見つけられる限り観たし、漫画も読みました。『クマ撃ちの女』とか、好きです。
ゆりでも、獣害系パニック映画って、鮫とかはたくさんあるのに、熊って意外と少ないんですよね…。
なぜこんなに熊を追ってしまうのかは、よくわかりません。鮫とか鯱とか鰐も好きだけど、なんか、熊No.1。
執念深い性質とかがキャラ的にいいのかな。とにかく、獣害系のコンテンツは単純なホラーとノンフィクションの間にある、現実に起こり得る怖さに惹かれている気がします。
そんな私が、熊との激しい戦闘があると聞いてすかさずAudibleで再生したのが、河﨑秋子さんの『ともぐい』です。
熊との死闘も、山で獲物を解体して食べる生々しさも期待どおり。私の「熊コレクション」に、また一つ好きな作品が加わりました。
でも、聴き終わって一番強く残ったのは、熊そのものではありませんでした。
自分で道を選び、間違いも結果も自分で引き受けようとする熊爪の生き方が、すごく格好よかった。
そして最後に、一番感情を揺さぶられたのは、名前のない犬でした。
この記事では、前半で『ともぐい』のグロさやAudible版の感想をネタバレなしで紹介し、後半で熊爪、良輔、陽子、犬について結末まで語ります。



ネタバレ嫌な人は、前半だけ読んでください!


3人兄弟(3y2y0y)のママ
出不精インドア派で映画と読書が好き
育児に追われて映画観れなくて悲しくなる
Audibleなら家事をしながら本が読める!
家事とエンタメの両立で心ほくほく
月15冊以上の本を読了するようになる
ビジネス書も大好き!
『ともぐい』の作品情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作品名 | ともぐい |
| 著者 | 河﨑秋子 |
| 出版社 | 新潮社 |
| 単行本発売日 | 2023年11月20日 |
| 受賞 | 第170回直木三十五賞 |
| 読める・聴ける媒体 | 書籍・電子書籍・Audible |
| Audibleナレーター | 林和良 |
今回、私はAudibleで聴きました!
物語の舞台は、明治後期の北海道です。
人里離れた山で、名前のない犬と狩猟をしながら生きる猟師・熊爪。人間社会から外れたように暮らす彼の前に、冬眠しない熊「穴持たず」が現れます。
熊との戦いを軸にしながら、熊爪が山でどう生き、何を食べ、人間とどう関わるのかが描かれていく作品です。
聴いたきっかけは、三宅香帆さんの本
『ともぐい』を知ったのは、三宅香帆さんの『「話が面白い人」は何をどう読んでいるのか』をAudibleで聴いていたときでした。
その中で『ともぐい』の熊との戦闘について触れられていて、「熊の戦闘シーンが激しいなら聴きたい!」と気になったのがきっかけです。



三宅さんの本はいったん保留にして、先に『ともぐい』を聴き始めちゃいました!熊か!熊で面白い本あるのか!
賞とか、最新作とか、そんなに追ってなくて、自分の興味の連鎖が続くところからフラフラ聴いたり読んだりするので、知らなかったんですよね。
熊目当てで選んだ私には、かなり期待どおりでした。
これまで見てきた熊の獣害動画やドキュメンタリーは、事件の経緯や被害を人間側から追うものが中心です。映画や漫画でも、怖い熊から逃げる、人間と熊が対決する、という見せ方が多かったと思います。
でも『ともぐい』は、少し角度が違いました。
熊爪は、もののけ姫のサンみたいに、獣に育てられたわけではありません。
それでも人間社会から離れ、山の中で生き、自分より強い熊の在り方に憧れている。熊になりたいとすら思っているような人物です。
そんな熊爪を通すことで、人間から見た怖い熊だけではなく、熊や山の側から人間を見るような感覚がありました。
熊との戦闘を楽しめたのはもちろん、今までとは違う角度から熊を見られたことが面白かったです。
『ともぐい』はグロい? 私の体感では5/10くらい
『ともぐい』には、熊爪が仕留めた動物の解体をしたり、内臓・生肉を食べる描写があります。
こういう描写に慣れていない人は、ちょっとグロさを感じるかもしれません。
私はグロテスクな作品を好むタイプなので、耐性がある方だと思います。そんな私の基準でいうと10段階中4〜5くらいでした。
人間ではなく、食料にもなる動物が中心だったこともあって、耐えられないほどではありませんでした。むしろ、狩猟や獣の解体が身近な人なら、なんてことのない描写なのかもしれません。



そして何より、グロさを見せつけるための作品ではなかったです。
単純に、山で生きること、命を奪って食べることを細かく描くために、必要な生々しさだったと思います。
グロい作品を期待して選ぶものではない。でも、内臓や解体の描写が本当に無理な人は、ちょっと覚悟しておいたほうがよさそうです。
Audible版は、熊爪のぶっきらぼうさが声だけで分かる
Audible版のナレーターは、林和良さんです。
熊爪の声が、とてもよかったです。熊爪という人物を、きちんと想像できる声でした。



ぶっきらぼうで、投げやりで、言葉が少ない男だということが、声の出し方だけで伝わってきました。
陽子が明るく話すときの声も、普段の底知れなさとは違う顔が見えるようで印象に残っています。
『ともぐい』は、熊爪の内省が大部分をしめる作品です。林和良さんの朗読は、熊爪本人の葛藤や変化、心情をとても繊細に表現してくれていました。
私は今回、『ともぐい』で初めて林和良さんのお名前を意識しました。
でも、今回の熊爪の声がかなり印象に残ったので、ほかにどんな作品を朗読しているのか調べてみました。
そこで見つけたのが、門井慶喜さんの『札幌誕生』。



どこかで聞いたタイトルだと思ったら、私がよく見ている積読チャンネルというYouTubeチャンネルで、紹介されていた作品でした!
札幌に住んでいる身として、以前から気になっていた本です。でも、読もうとまではなかなか腰が上がらなくて。林さんが朗読しているなら、次に聴いてみようかなと思っています!
\Audibleで『ともぐい』を聴いてみる/
※無料体験の対象・期間など、最新の条件は公式サイトでご確認ください。
ここからネタバレあり|一番心に残ったのは、熊爪の生き方だった


ここからは、熊爪の最期と犬の結末まで触れます。
熊との戦闘も期待どおりだったし、陽子や良輔も魅力的でした。
でも、この作品を聴いて一番強く思ったのは、熊爪の生き方が格好いいということでした。
熊爪は、何かがおかしい、自分が思っていた方向と違うと感じたときに、「誰のせいでこうなった」とは考えません。
自分はどこで間違えたのか。あのときか、それとも別の選択か。
自分の歩いてきた道を、自分で振り返る人でした。
これは、何でも自分が悪いと思い込むこととは違います。外から与えられた状況まで、全部自分のせいにするという話でもない。
最後に選んだのは自分だと認識して、判断の主導権を他人に渡さない。
望んでいなかった結果も、自分の選択の先にあるものとして引き受ける。その姿勢が、熊爪にはずっと通っていました。
自分で決めたという手応えがあれば、後悔は学びになる
私も、日々の生活の中で、なるべく「自分で決めた」という意識を常に持って生きるようにしています。
人に言われたから選んだと思っていると、良くない結果になったとき、その人のせいにしたくなる。
でも、結局それを選んだのは自分だと認識できていれば、「なぜ駄目だったのか」「次はどうするか」を考えられる。



自分で決めたという手応えがあれば、間違いも、ただの後悔だけでは終わらず、次の決断のための学びになると思うんです。
なんとなく決めることだってあります。
それでも、「なんとなく、自分が決めた」と分かって進むのと、流されて進んだことにするのとでは、たぶん違う。
この感覚は、母の影響があると思います。
強く教えられたわけではありません。でも、母の言葉の端々や生き方から、きっと自分で納得して決めることを大切にする人なんだろうなと感じていました。
それを見て、私は「こういう人は格好いい」と思った。
自分でもなるべくそうしてみたら、これはいいと思えて、年齢を重ねる中で、少しずつ意識して身につけてきました。
だから私は今でも、この身につけた感覚を「ぶれないようにしたい」と少し気をつけています。
一方で熊爪は、少なくとも私には、誰かを見本にしてこの生き方を身につけた人には見えませんでした。
他人に影響されないよう努力しているのではなく、そもそも自分の判断を他人へ預ける発想がないように見える。
私が意識して身につけてきたことを、熊爪は息をするようにやっている。
熊爪にとっては、立派な信条ですらないのかもしれません。自分で決め、自分で引き受ける。それ以外の生き方を知らないだけなのかもしれない。
その、誰かに影響されたわけでもなく、当然最初からそうだったように見えるブレなさが、私には「本物」に見えました。
自分は偽物なのか?という悲しみがあったわけではないです。でも、近しい姿勢に見えても、そこへ至った道と質感が違う。
その、自分より盤石に感じたその気質が、「熊爪かっこいいかも」という憧れになったんだと思います。
熊爪は、自分の死に方まで自分で選んだ
熊爪は熊との戦闘で腰の骨に大きな怪我を負い、それまでと同じ猟師ではいられなくなります。
失ったのは、狩りをする能力だけではありません。
今までの自分のまま生きることができなくなった。
熊爪はそこで初めて、この先も山で生きるのか、人間に近い暮らしをするのか、それともどこで死ぬのかを考え始めます。
一番強い熊に殺されたいと望んだのに、熊は熊爪を殺してくれなかった。
最終的に熊爪を殺すのは、陽子です。
でも、熊爪は殺されると悟ったあと、抵抗しませんでした。
陽子がその状況を作ったとしても、最後に死を受け入れることを選んだのは熊爪だった。
こんな土壇場の、しかも死にゆく意識の中でも「自分で決める」を実行してるの。本物だなぁって。私には、いざという時にこんな余裕あるかな、持ってたいけどなぁって。
陽子を連れて山へ戻ったことも、共に暮らしたことも、そこに至るまでの道は熊爪が選んだものです。
熊爪にとって、「こんなはずじゃなかった」と、自分の人生から置き去りにされることが一番耐え難かったんじゃないかと思います。
望んだ死に方とは違っても、自分が選んできた道の先で、最後に抗わないことを選んだ。
だから私は、熊爪はある意味で、自分で死ねたのだと思いました。
良輔は、熊爪に憧れていたからこそ妬ましかった
良輔と熊爪の対比も、すごくよかったです。
良輔は商売も、お金も、社会的な立場も持っています。人間の町で見れば、熊爪よりずっと多くのものを持っている人。
でも、持っているからこそ、守るものもしがらみも多い。
熊爪には社会的な地位も財産もないのに、誰にも何も言わせず、自分の生き方を変えません。
良輔はそんな熊爪に憧れていた。でも、自分には絶対にできない生き方を目の前でされると、その憧れは妬みにもなるんですよね。
自分のほうが社会では上のはずなのに、熊爪はそんな価値基準を意にも介さない。
良輔が熊爪に感情をぶつけて泣き崩れる場面は、それまで隠していたものが一気に出たようで印象に残りました。
憧れって、自分もなれるかもしれないから憧れなんでしょうか。
絶対になれないものが近くにいたら、どう扱えばいいのか分からなくなって、妬ましくなるのかもしれません。
逆かな?自分がなれそうなのになれない、もどかしいから妬むのかな。どっちだろう…。後者かもしれないです。
とにかく、私は熊爪に憧れたけど、良輔はきっと妬んだんだと思う。
ちなみに、線が細くて色白で、何考えてるかわからなくて、でも感情が壊れたら泣き叫んだりしちゃう、和服メガネの良輔ってキャラクター。普通に好きです。めっちゃ萌えました。
何を考えているか分からない陽子が、最後まで魅力的だった
陽子は、何を考えているか最後までよく分からない人物でした。



でも、そこがこのキャラの最大の魅力で、おいしいところだと思います。
少女のようでもあり、男を引きつける艶めかしい女でもあり、母親でもある。片目は見えるのに、見えないふりをして暮らす狡猾さもある。
そして、度胸ありすぎだろと。
時代が時代だからかもですが、一人で出産って、マジかよと。
私普通分娩1回と帝王切開2回経験してますが、何がどうバグっても、自分で完結できる気なんてしません…。
危うくて、影があって、どこまでが本音なのか読ませてくれません。
それが、男性を惹きつける魅力なんだなと。
熊爪が、沼に例えて色々考えるのもよかったです。「沼らせる」って表現の成り立ちや裏側を解説してたみたいなターンでしたね。
子どもを産んで母親になったことも、子どもを大事にする描写も、どこまでが本音なのか。
きっと、「母親でもやってみようか」くらいの気持ちで流れに乗ったんだろうなって想像します。
熊爪が子どもを殺すかもしれないと感じたときも、表面上は大きく取り乱しません。
本当にそれならそれでいいと思っていたのか。顔に出さず、この男は危ないからいつか殺そうって、腹の中で決めたのか。
後日談では、結果として陽子は子どもたちを育て、母親であり続けたようです。それでも、彼女の中で何が起きていたのかは分かりません。



医学的な意味ではなく、私の好きな「サイコパス的な底知れなさ」を全部持っているキャラクターでした。
艶かしいのがいいね、マジで。
陽子はなぜ熊爪を殺したのか
陽子が熊爪を殺した理由って、結局何だったんですかね。
熊爪を危険な存在だと判断したから、自分と子どもたちの未来のため。
そもそも、良輔から離れるきっかけとして利用しただけで、落ち着いたらこうするつもりだったとか?
「どの可能性もあるし、わからない」で終わるのでいいと思うんだけどね。



ただ私は、「陽子が熊爪を愛したから、死に場所を与えた」説を推したいです。
陽子は、熊爪からもらった小刀で熊爪を殺しますよね。
熊爪自身も、「なんで?」ってなってたけど、私も、陽子なら確実に仕留めるならちゃんと準備できたと思う、だから、あえてこの小刀だったことには確実に意味あるよね。
やっぱり、貰ったものだからってことで、それが2人の思い出だから的なことなのか、思ったよりも憎んでたから、あえて貰ったものであえて苦しい半殺しにしたのか。
この2択だよね…。私は一応、前者推し。半殺しにしちゃったのは思ったより上手くできなかっただけで、貰ったもので終わらせたかったって愛よりの気持ちがあった推し。
あー、でも、今書きながら思ったんですけど、
こう思うのは、熊爪視点でずっと読んできたからかも。
熊爪サイドで熊爪かっこいいかもって側で読んでたから、綺麗に死ねてよかった、なんだかんだで愛されてよかったって思いたいだけかも。
熊爪視点では、行為の時も陽子ノリノリだった描写あるけど、捨てられないために今は演じる作戦だった可能性あるよね。
結構強引に荒々しく抱かれたみたいだし、ノリノリだったらそれはそれでエロくてよろしいけど、産後だよ?一生恨んでやるって気持ちになってもおかしくないかも。
でもとにかく、陽子が熊爪を完璧に殺せないのは、違う意味でもよかったです。だって初めての人殺しだもん。完璧だったら出来過ぎで萎えるかも。
私の、熊爪サイドで美しい物語として終わって欲しいフィルター越しの陽子は、苦しそうに熊爪を殺していたと思う。
熊爪が死に場所を探していると陽子が気づき、愛着があったからこそ、自分がその役を引き受けた。
本文から決められる正解ではありません。
でも私は、陽子が熊爪を愛していたから、彼が探していた死に場所を与えた可能性を信じたいです。
もし実写化するなら、この3人で見たい
ここまで人物について考えていたら、もし実写化するなら誰に演じてほしいかまで想像したくなりました。



熊爪は、一ノ瀬ワタルさんで見たいです。
『サンクチュアリ -聖域-』で見せた圧倒的な体の厚みと野性味なら、山で本当に生きてきた熊爪にも説得力が出そう。
怖さの中に、不器用さや幼さがふっと見えるところも、ぬくもりを求めながら愛情の形は分からない熊爪に合う気がします。
良輔は、中村倫也さん。
窪田正孝さんと迷った〜!
普段は上等な着物と眼鏡が似合う商家の主人として静かな貫禄があるのに、熊爪の前でだけ姿勢も表情も崩れ、最後には顔をぐしゃぐしゃにして泣く。その落差を見てみたいです。
そして陽子は、河合優実さんかな?
最初に浮かんだのは、二階堂ふみさんだけど、流石に陽子10代だと思うから、ダメかなと。二階堂ふみさん大好きだけど、ここは次世代にバトンタッチしていただいて。
陽子を分かりやすいサイコパスではなく、「この人にはこの人なりの理屈があるらしい。でも、その理屈が誰にも見えない」人物として演じてくれる人がいいです。
ちょっとAIで遊んでみました。
あんまり俳優さんの特徴出てない。笑
でも、イメージこんなんですよね?





実写化ワクテカ!
『レヴェナント:蘇えりし者』のディカプリオと熊みたいなの待ってます。
『ともぐい』というタイトルの意味は、一つに決めきれなかった
聴きながらずっと、「何がともぐいなんだろう」と考えていました。タイトル回収が綺麗な作品って、それだけで素敵だし。腹落ちするの気持ちいいし。
でも、聴き終わっても、これが唯一の答えだとは決めきれませんでした。
陽子が熊爪を殺したことを、人間同士の「ともぐい」と読むこともできると思います。
ただ、私はそれだけでは、あまりしっくりきませんでした。
熊になりたかった熊爪は、自分を山の獣として見ていたのではないでしょうか。
熊に殺されることは叶わなかった。それでも獣として死に、自分が食べてきた動物たちに今度は食べられ、山の循環へ戻ることを望んだ。
人も熊も鹿も、山では食べ、食べられる命です。
獣として生きた熊爪が、最後は獣たちに食べられる側へ回る。その循環が、『ともぐい』だったのかなぁという読み方をしました。
熊目当てだったのに、最後は名前のない犬に泣かされた
熊爪と犬の関係、よかった…!
熊爪の中では、相棒というより、気に入って使っている銃と同じくらいの「頼れる道具」だったのかもしれません。
それでも、犬のぬくもりに安心し、いてよかったと思う描写が何度もあります。
犬が熊爪を思う気持ちは、もっと分かりやすいです。
あの、HUNTER×HUNTERのゴンとキルアみたいだなって思ったり…。



言い過ぎか、キルア片思いすぎるけど、流石にゴンはキルアのこと道具とは思ってないもんね。
でもとりあえず、わかりやすい忠犬っぷりで素晴らしく可愛いです。
熊爪は、家族や愛情というものが自分には分からないと、何度も考えていました。
犬への愛着を認めたくなかったというより、それを「愛情」として認識し、名前をつける思考回路を持っていなかったのかもしれません。
熊爪自身は最後まで道具だと思っていたかもしれない。でも、二人の関係は、もう「道具」という言葉からはみ出していたと思います。
物語の最後、犬は新しい主人と一緒に、熊爪と暮らしていた小屋へ戻ります。
そして、満足したようにそこで息をする。
ここで泣きました。
犬は脇役です。でも物語の最初から最後まで、ずっと熊爪のそばにいた。
熊爪の強さも、怪我をして変わっていく姿も、陽子と暮らした時間も、熊爪の死も知っている。
熊爪が自分で選んだ人生を、最初から最後まで見ていた、唯一の生きた証人だったんですよね。
熊爪本人がいなくなったあと、犬が小屋へ帰ることで、「熊爪はここで確かに生きていた」と最後に確認されたように感じました。
熊爪が山の循環へ帰ろうとしたように、犬も自分の始まりの場所へ帰った。
その帰還で、熊爪の人生だけではなく、犬との物語も静かに閉じたんだと思います。
まとめ|私も「自分が決めた」という手応えを持っていたい
熊との戦闘を目当てに聴き始めたし、その期待はしっかり満たされました。
獣の解体や内臓を食べる生々しい描写もありましたが、グロさを見せるためではなく、山で命を奪い、食べて生きることを描くためのものだったと思います。



でも、この作品を聴いて一番強く残ったのは、熊爪が自分で選び、その結果も間違いも自分で引き受けようとする生き方でした。
私は母を見て、その生き方を格好いいと知り、自分でも意識して身につけてきた。
でも熊爪は、そんなことを考えるまでもなく、息をするように自分の人生を引き受けているように見えました。
だから私は、熊爪を「本物」みたいで格好いいと思ったんだと思います。
私もこれから、自分が決めたという手応えを手放さずにいたい。
熊目当てで聴き始めた『ともぐい』から、私は熊爪の生き方を持ち帰り、最後はその人生の証人だった犬に泣かされました。










コメント